『見知らぬ女からの手紙』(徐静蕾)

執着心は、強さは人それぞれに違っても持っているものだろうが、ここまでになると美しいというより怖い。


最初はかわいい一途な夢だったのだろう。それが、大学生の時に夢が叶って親密になったはずだったのに、その後連絡が途絶えてしまったこと、忘れ去られてしまったこと、子供ができたところで、愛情の質が変わった。自分を思いださない男への恨み、何としても思い出させてやるという意志、子供には惨めな生活はさせたくない、彼と同様の生活をさせてやる。そんな彼女の意地にも似た意志が目標になったかのうようだった。目の演技にその凄みが出ていて、だから終盤の彼女のまなざしは怖い。


姜文の起用は? もっとルックスがよくかっこよいインテリだったら、もっと納得感が出たろうに。そこが嘘くさい感じがしたのと、いくらなんでもここまで忘れるかな? という2点が釈然としなかったので、観ながらついついひっかかってしまったのが残念。私としてはキャスティングは不満足。


しかし、映像も音楽も美しい。彼女の監督としてまとめ上げる力、完成度を上げるために必要な執着心は並ではない。期待しよう。


  • 2004年/中国/90分
  • 原題:一個陌生女人的来信
  • マックス・オフュルス監督「忘れじの面影」('48)のリメイク
  • 監督 製作 脚本:徐静蕾 シュー・ジンレイ
  • 撮影:李屏賓 美術:曹久平
  • 出演:徐静蕾 シュー・ジンレイ、姜文 ジャン・ウェン、林園、黄覚
  • 音楽:久保田修、林海 リン・ハイ