『シクロ』(トラン・アン・ユン)

アジアの映画を見ると、行きたくなるような作りをしている観光案内映画は数多いけれど、この映画は毒が強いので、私は行きたくなるが、行きたくない人も出てくるだろう。貧困、汗、暴力などの現代ホーチミンの裏の毒だ。


場面は10数年前のベトナムホーチミン。豪華な高層ホテルが建ち始める一方でその隣にはスラム街が広がる。主人公は、シクロと呼ばれる輪タクの運転手として働く青年(レ・ヴァン・ロック)。シクロを盗まれたのを期に、犯罪に加担せざるを得なくなり、徐々に精神が壊れていく。1作目「青いパパイアの香り」で、静かでみずみずしいベトナムの美しさを描いたトラン・アン・ユン監督が、一転してどろどろしたテーマを描いている。


毒がない花は退屈とも言えるし、ひっかかりがなくスムーズな造形は面白くないので、これは私的には、あり。